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猫小屋日記


<学生戦争>幽×怪人 「女王蜂の女」

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 海野 幽<ウンノ ユウ>
 水山 怪人(赤軍版)<ミナヤマ カイト>








 ゴソゴソ、ゴソゴソ。小さな籠の中で、虫たちがうごめいている。
海野 幽(うんの ゆう)は、その傍らで、毒物の抽出作業を行っていた。

 毒は、自然界のごくありふれたものに存在している。幽は、それを学校の誰よりも詳しく知っていた。時折山へ出向いては、毒草、毒虫などを採集し、持ち帰り、それを武器としていた。毒を使えば、非力な幽でも辛い戦いを生き抜くことができるからだ。

「相変わらずこの部屋は凄いにおいだな。」

 不意に、背後から声がした。幽が振り向くと、そこには赤い面を手にした水山 怪人(みなやま かいと)が立っている。幽はため息を一つつくと、もう一度机に向かい、毒の整理を再開した。

「無視か、ふぅ…。ハンミョウ、いらないのか?」
「要る。そこに入れといて。」
「はいはい。」

 怪人は数歩歩くと、ハンミョウたちがうごめいている虫かごへ、手にしたそれらを放り込んだ。

「いつ赤面隊に入る?」

 怪人は虫かご眺めながら、幽に語りかけた。赤面隊を作ったのは、怪人の師であり、そして、他でもない幽の父だった。幽は赤軍に籍を置いてはいるものの、まだ何処の部隊にも所属していない。実質何も戦果を挙げておらず、そのうえ、スパイとはいえずっと黒軍側で戦いを続けている幽の立場は、赤正規軍のお偉いさんに疑われ、日に日に危うくなっていた。怪人は幽を兄弟のように思っていた。怪人は、幽のそんな立場を心配していたのだ。

「入るなんて言ったことあったっけ?」
「他に行くところ、ないだろう。」
「あるでしょ、いくらでもね。このまま黒になってもいい。」
「お前…」

 師の想い、自分の意思、活動を無為に考えているかのような一言に、怪人が振り向き、幽をにらみつける。しかしはじめに目線を向けていたのは幽の方だった。父の亡き後、赤面隊は瓦解するかと思われた。しかしこの怪人はその操り人形のように、父亡き後も赤面隊として活動している。正義面して、考えている振りをして、しかし本当は、この男は誰よりも思考できていないのだと、幽は感じていた。得体の知れない怪人(かいじん)。どこから来たかもわからず、ただ世を恨み、殺戮を繰り返す恐ろしい男…。

「ハッ」
 幽は、此方をにらみ続ける怪人を見て、鼻で笑って見せた。

「何だ」
「何でもないよ。本気にして、馬鹿じゃないの?」
「ふん…」

 怪人はそれ以上追及しないようだったが、納得もしていないようだった。しかし睨むことは止め、歩き回りながら、辺りの野草、茸などを見て回っていた。気持ちを落ち着かせているのだろうと、幽にはそう見えた。

「そこにあるだろ、仮面。」
 幽がそう言うと、怪人は足を止めた。

「どこに?」
「ほら、そこの横…違う違う、右のほら、本の、そうそれ。」

 怪人は、本とフラスコの間に挟まれたそれを手に取った。赤い仮面。スズメバチを模した真新しいそれは、高貴な女王を感じさせるような、凛とした顔つきをしていた。

「入る気は、あるんだな。」
「当然だろ。アンタには任せられないしね…危なすぎて。アタシが隊長をやる。」
「何?」
「だから何本気にしてんの?」
 呆れたように言い、幽は再び机の上に目線を落とした。怪人は仮面をそっと戻すと、部屋の出入り口に向かった。

「誰もアタシを縛れないよ。」
 怪人が扉の前辺りに来たとき、幽は怪人に声をかけた。

「時代がそれを許すかな。」
「許されるさ。人間は自由に生きるように出来てる。」
「…また来るから、そのときに、いつ赤面隊に入るか聞かせろよ。」
「アタシはアタシの好きにやるって、言っただろ。」

 しばしの沈黙、二人とも、目線を合わそうとはしなかった。

「そうも言っていられない日が、来るに決まってる。」
「そうやって決め付けて、それで上手く行かなかったらどうするつもり?」
「その時はその時だろう。」
「皆、アンタみたいに狂ってないんだよ。赤面隊皆が、わが身を犠牲に出来るとは思わないことだね。」
「…また来る。」

 古びた扉が開き、閉まる音がした。ゴソゴソ、ゴソゴソと、ハンミョウたちのうごめく音が聞こえる。

「何事も変わるんだよ。決まってなんか無い。前と今は違うんだ。」
ゴソゴソ、ゴソゴソ。
部屋は相変わらず、異臭を放っていた。
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<学生戦争>黒乃×怪人「鬼夜叉黒乃」

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 杜白 黒乃<モリシロ クロノ>
 水山 怪人(赤軍版)<ミナヤマ カイト>
 武田 猛人<タケダ タケヒト>


===
 水山怪人は、猛人に偽の情報を流させ、白軍をかく乱した上で、単身で白正規軍の施設に潜入していた。目的は、黒軍生徒、杜白黒乃の救出…そして赤軍への引き込みだ。

 黒乃は、黒軍の諜報部員である。
 白軍に鹵獲されたのは、スパイ任務を行っていた所を白正規軍に発見されてしまったからだ。怪人にとってこれは、友人を失う危機であり、それでいて仲間を、赤面隊の勢力を増強するチャンスでもあった。こんな状況下で、赤面が動かない筈が無い。

「それでは、上手くやってください。」

 白正規軍の姿をした女が、学生服を着、黒い鬼の仮面で顔を隠した怪人へ、黒乃の武器と、鍵を手渡す。この女は、元白軍、現赤軍所属のスパイだ。

「ありがとうございます。そちらこそ、お気をつけて。」

 黒乃の武器を担ぎ、手に武器を持ち直すと、怪人は「猛人と内通者によってお膳立てされた、至極安全な道」を使い、黒乃が監禁されている部屋まで急行した。

◆◇◆

 怪人は、B1F、牢獄のフロアにやってきた。ケモノの腐った匂いがする。
 牢獄には、およそ人だったとは思えない醜悪な物体が、転々と転がっていた。それにしても、敵同士で結んだ協定など、クソの役にも立たないのだと実感させられる。
 この有様は、死体の処理もままならないのか、それとも、あえてそうすることでここに来る人間の戦意を低下させているのだろうか。しかし怪人は、それらの意図を深く考えはしなかった。ちらほらと学生服やセーラー服が残っているのを見、あふれ出す怒りを沈めることで精一杯になっていたからだ。
 踏みしめる一歩一歩に怒りの念を込め、この状況を作り出した大人たちを呪いながら、怪人は少しずつ、最深部に待つ、黒乃へ近づく。鬼の面もあいまって、復讐鬼のような出で立ちで、黒乃へと寄ってゆく。その姿は、しっかりと、黒乃の目にも映っていた。

◆◇◆

 黒乃は、牢の中で静かに待っていた。怪人は黒乃の武器と同時に預かった鍵で扉を開く。古びた金属がこすれる音と共に、ゆっくりと扉が開いた。

「迎えに来たよ。」
「誰?」

 声色を変えて話す怪人が誰なのか、黒乃には分からなかった。ただ、自分を助けに来たのだろうということは分かった。

「私の武器…。」
「……後で渡すさ。」

 黒乃に不信感が募る。この男は、何をするつもりなんだろうか。しかし、今はとにかくここから脱出しなければならない。黒乃はひとまず、警戒しつつも、鬼仮面の学生についてゆくことを決めた。

「あなたは誰。」
「同じ学校の生徒とだけ言っておこうか。…とにかく今は黙ってくれ。白軍に気が付かれたら二度と日の目は見られないよ。」
「うん。」

 黙って怪人に付き、進む。どうやったら白軍の根城の構造をここまで理解できるのだというくらい、ぐるぐると細い道を、誰にも気が付かれずに抜けていった。
(凄い…。こんなの、諜報部でも知らないんじゃないの…)
 黒乃の中で、信頼と疑いが膨らんでゆく。黒軍も知りえないような情報を知っているこいつは、本当に黒軍の生徒なのだろうか。今は従うとしても、万が一に備えておいたほうが良いだろう。
(まぁ今は、武器もこいつが持っているんだけど。)

「さぁ、出よう。」

 都合よく停止している地下の空調ファンの隙間から、怪人が手を差し伸べる。この空調をとめたのも、内通者たちの仕業だった。ことは全て上手く回っているというわけだ。
 黒乃は怪人の手を取ると、少し大またで、ファンの隙間から外へと脱出した。

「ぬけた…。」
「あぁ、抜けた。」

 黒乃に背を向けながら、怪人が仮面を入れ替える。黒い鬼仮面を外し、いつもの赤面を装着した。

「お前…、お前は!」
「まて、叫ぶな。まだここで気が付かれるのはまずい。」

 しかし黒乃は止まらない。鬼面無しでも、復讐鬼のようだった。事実、復讐に燃えているのだ。親友、相葉佳世を殺した本人、赤面を目の前にして、落ち着いていられるはずが無いのだ。 ただ、武器も持たないか弱い黒乃は、怪人に大した抵抗をすることは出来なかった。すぐに間接を極められ、身動きを取れなくされ、口をふさがれた。

「大人しくしろ…!」

 ワラワラと、数人の赤面隊員が現れた。彼等は手早く、黒乃の手足を縛り、猿轡をつけ、無力化した。その中でも飛び切り大きな男…猛人が、怪人に耳打ちする。

「どうする。」
「まずは連れて行く。私に因縁があるのは分かっていたことだ。…だからこそ話がしやすいと踏んだんだけどな。」
「分かった。」

 黒乃は、軽度の麻酔を打たれて、力が入らなくなっていた。猛人がこれを担ぎ、赤面隊たちは、白軍に気が付かれる前にその場を後にしたのだった。

◆◇◆

 黒乃は、赤面隊拠点の一つにつれてこられていた。何も無い無機質な部屋は、息遣いさえもが木霊する。部屋の中には、怪人、猛人、黒乃の三人が取り残されていた。

「そろそろ意識もはっきりしてきた頃か。」

 怪人が、黒乃と目線を合わせる。黒乃の目にはすっかり、生気と殺気が戻ってきていた。荒い息遣いは、壁に何度も反響し、渦巻く怒りのよどみを発生させていた。

「よさそうだな。…お前のペンダントを見て分かったよ。私との因縁が。すこし、話を聞いてもらおう。」

 黒乃は、ただ怪人を睨んだまま、相変わらず荒い呼吸を続けていた。

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 猿轡を外され、呼吸の音が少しだけ小さくなる。

「タケ、お前はもういい、下がっていろ。」
「あぁ。」

 猛人の足音と、扉の開閉の音が響いた。部屋には、怪人と黒乃の二人だけが取り残された。張り詰めた空気が、二人の心を締め付ける。

「…まず先に質問させてもらうが、そのペンダントは、ペアの品で間違いないな?」

 黒乃の反応は無い。仕方なく、怪人は、自分の胸に下げた大きなペンダントを開き、中から、血のついた布と、同型のペンダントを取り出した。黒乃の表情が急に険しくなった。白軍基地前で見た、復讐鬼の表情だ。間違いないなと、怪人は確信した。

「これは、お前の友人から渡されたものだ。」
「嘘をつくな!」
「嘘ではない。だが預かっただけだ。譲り受けたわけではない。お前に、渡して欲しいと、そう頼まれたのだ。」

 黒乃の表情が、戸惑いに変わっていく。信じていたものに、何か疑いが生まれたときの顔だ。黒乃は、自分がなすべきだと考えていた復讐行為について、勘違いの可能性を予感したのだった。

「話が終わったら、これは武器と一緒にお前に渡そう。…何から話すか。そうな、まずは言い訳から…。お前の友人に致命傷を与えたのは、私ではない。あの娘の致命傷は、白正規軍によるもの。小型のクラスター爆弾が腹部付近で爆発した為に受けた傷だ。」
「でもあの時…」
「そうだな、止めは、この、私が、刺した。」

 ぎゅっと、怪人が武器を握り締めたのが、黒乃にも分かった。怪人の心情を正確に推し量ることは出来なくても、ただ何も感じずに殺したわけではないことが、黒乃の心を少しだけ救った。

「あの子の希望だったからな。楽にして欲しいと、そう言ったから。」
「そう…」

 空気は相変わらず張り詰めていた。黒乃は、この男が言うことを真に受けてよいのか、それとも疑ったほうが良いのか、判断できないでいた。この男は、危険を冒して私の命を助けてまで、何の為にこんな話をしているのだろう。

「お前が私を付け狙っていたのは、この友人のことだろう。」
 黒乃は怪人から目を逸らさず、慎重に小さくうなづいた。
「では私を襲うのは止めて欲しい。」
「……」

 黒乃は決めかねていた。この男がでまかせを言っているのか、真実を言っているのか、判断することが出来なかった。嘘ならこの男は親友の敵だ、しかし真実なら、大げさに言うなら、恩人ということになるのだ。

「証拠がない。」

 黒乃は一言そういった。

「そうだな。」

 怪人も、もちろんそんなことは分かっていた。あの場に居合わせ、自分が止めを刺したところを目撃したこの黒乃が、まさか、ペンダントを渡すべき相手だったとは、そんなことは考えもしなかった。

「証拠はないが、信じて欲しい。」
「……」
「……」

 このままでは平行線だ。そんなことは、誰の目からも明らかだった。

「黒乃」
「呼び捨てにしないで」

 黒乃は嫌がったが、怪人はそのまま話を続けた。

「私達赤面隊は、学生が戦争に巻き込まれることを、殺しあうことを善しとしない。」
「私は人を殺すが、それは世の中を変えようとしない大人だけだ。」
「親友を殺されたお前は、私達の仲間になるだけの理由が十分あると思っている。」

 ここまで言われて、黒乃は怪人の思惑に気が付くことが出来た。

「つまり、私に仲間になれって事。」
「なって欲しい。」
「だから、わかんないって…」
「まぁ、まて。」

 怪人は黒乃の言葉を遮り、そして、自らの赤仮面に手を添えた。

「人柄も分からない相手の話について、嘘誠を判断するのは辛かろうし、教えてあげよう。見たからって、殺したりはしないから安心してくれ。私達は、学生を助けたいと考えている。」

 そうは言っても、怪人は少しためらった。この判断が間違っているとしたら、赤面隊の未来は閉ざされるかもしれない。黒乃は曲がりなりにも諜報部なのだ。

「…予め言っておくけど、別に、黒乃に近づいたのは因縁があったからって訳じゃないからね。」

 怪人は声色の調整をやめ、口調を穏やかに戻すと、ゆっくりとその仮面を外した。

「え…」
「ここまでしたんだ、信じてもらえないと困るよ。」

 黒乃は絶句した。口を少しだけ開いたまま、小刻みに震え、それでもまっすぐと、怪人の顔を目に焼き付けていた。
 親友の敵だと考えていたその男は、その親友の代わりとなってくれていた、怪人だったのだ。驚きや、悲しみが黒乃の中に一度に飛び込んできた。
 怪人は、黒乃の動揺を見て、赤仮面をもう一度、顔につけなおした。

「もう一度頼む、信じて欲しい。」

 黒乃の返事は無い。

「……分かった。残念だけど、今日はこのまま帰そう。出来ることなら、私の正体は誰にも言わないでくれ。このペンダントと、黒乃の武器は返そう。」

 怪人は、黒乃の後ろに回り、手足を縛るロープを外した。そして、呆然としている黒乃の目の前にしゃがむと、その汗ばんだ手を開かせ、小さなペンダントを渡した。

「それじゃ、武器を取ってくるから、もう少しだけ、ここで楽にしていて。」

 怪人がそう言って立ち上がり、くるりと後ろを向くと、黒乃が抑揚の無い声で呟いた。

「まって」

 不意の声に立ち止まる怪人。

「このペンダントは要らない。怪人が持ってて。」
「……わかった。」

 怪人に、黒乃の胸のうちを全て知ることは出来ない。けれどきっとこの行為には、心を許すとか、そういった意味合いが含まれていると怪人は思った。だから、素直にそのペンダントを受け取ることにしたのだ。

「あと、私、仲間になる。」

 黒乃は気が付いた。真実がどうであれ、自分にとって大切な人は、目の前の怪人しか居ないのだ。自分の世界はもう、怪人にしか残されていないことに気が付いた。もし嘘だとしても、騙されたまま一緒に歩むのも、悪くない。

「無理、しなくていいよ。」
「大丈夫」
「本当に?」
「大丈夫」
「わかった。」

 怪人は、潜入時に見につけていた黒い鬼の仮面を取り出した。

「仲間になるなら、祝福しよう。…この仮面は黒乃、お前だ。黒軍に所属し、復讐に駆られていた、復讐鬼だったお前だ。」

 黒乃はその仮面をじっとみた。恐ろしい三つ目に二本角。分かり合えないような表情をしたその仮面は、確かに、周りの言葉に一切耳を貸さず、ただ自分の復讐だけを考えて歩み続けてきた自分かもしれないと思った。

「けれど今日からは違う。赤面隊の一員として勇敢に戦う、勇ましい赤鬼…。」

 そういうと怪人は、速乾性のインクで、仮面を赤く染め始めた。

「私達の仲間、私と同じ赤面隊だ。」

 見る見るうちに黒が赤に染まってゆく。闇の中に吸い込まれるような漆黒は、燃えるような赤に変わっていった。

「これは、これからの黒乃。私達の仲間、赤面隊の夜叉、黒乃。…この仮面、黒乃にあげるよ。赤い仮面なら何を使ってもいいけど、何も無いなら、これ、使って。」
「うん」
「立てる?」
「うん、大丈夫。」

 黒乃は立ち上がると、スカートやら服やらに付いたほこりを払った。

「タケー!黒乃の武器持ってきて!」

 怪人が叫ぶ。何処かから、「おー」という声が聞こえてきた気がした。

「じゃぁこれからよろしく。戦いたくないときは、逃げていいから。“いのちだいじに”だよ。」
「なにそれ、ゲームじゃないんだから。」

 黒乃が少しだけ笑った。

「そうだね、頑張ろう。」

<学生戦争>黒乃×怪人×猛人×里子×維×紡 戦場にて

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 杜白 黒乃<モリシロ クロノ>
 水山 怪人(赤軍版)<ミナヤマ カイト>
 武田 猛人<タケダ タケヒト>

 猫樹 里子<ネコノキ サトコ>
⇒みさとさん(@nekonoki3310)とこの子です。お借りしました。

 手結 紡<てつがい つむぐ>
 手結 維<てつがい つなぎ>
⇒こちらお二人は紡さん(@blanclait_you)とこの子です。お借りしました。







 銃声が聞こえる。金属のぶつかる音が聞こえる。悲鳴が聞こえる。怒号が聞こえる。当然だ、戦場なんだから。
 白軍正規軍のみぞおちから薙刀を引き抜くと、怪人は、辺りを見回した。やっと、この抗争も落ち着いてきただろうか。あれだけいた白軍も、随分と少なくなった。混乱した戦場から、退避していったのだ。

 今回の戦いは、白軍の侵攻から始まった。ほぼ奇襲だったそれは、準備不足の黒軍に大打撃を与え、学生達が住む領域までの侵入を許してしまった。大きな戦力差を見かねた我々「赤面隊」も戦いに乱入、戦場をかく乱したというわけだ。
 功を成してか、黒軍学生部隊の死傷者はほぼ、居なかった。

「おいカイ、あれ!」
「あ?…クソッ!」
「余計な殺しはするなよ!」
「知らないね!」

 赤面隊副隊長「武田猛人(たけだたけひと)」が指差す先には、白黒両軍生徒数名の姿があった。そしてその少し離れた先には、白軍正規軍の残党。手にはライフル。
 駆け出すも、流石に間に合わない距離だということが分かった。狙われている小柄な生徒は敵に気が付いていない。このままではヘッドショットをかまされて、脳みそがドカン、だ。
 しかし怪人の予測は外れた。およそありえない事象だったが、その場にいたもう一人の黒軍生徒が、手にした銃で接近するライフルの銃弾を撃ち落したのだ。生徒達の会話が聞こえる。怪人は、助けを請う正規軍の腹部をめった斬りにし、致命傷を負わせ無力化すると、生徒達の会話に耳を傾けた。

「おわっ。なんだべちゅなぎ!」
「狙われてる」
「ああでももう大丈夫そう…かな?あの赤軍が助けてくれたみたいだ」

 一同が怪人を見た。怪人は、彼等の顔を確認する。黒軍の少女二人。一人は同じクラスの「猫樹里子(ねこのきさとこ)」もう一人は、二学年の「維(つなぎ)」だろう。苗字は知らない。しかし気になるのは白軍の男子生徒だ。なぜ戦場下、黒軍である二人と行動を共にしている?

「あぁ…紡(つむぐ)じゃないか…」

 猛人がぼそりと呟いた。

「知っているのか?」
「クラスメイトだ」
「ふん、反逆でもしてるつもりか」
「いや、恐らく姉を助けに来たのだろう。黒軍に姉が居ると聞いた」
「ふーん…」

 なるほど、よく見るとあの維と紡、どこか似ている。恐らく姉というのは維の事だろう。それにしても仲の良いことだ。あの里子に、命を守りあう程の仲間が居たとは。
 薙刀の血を払い、強襲に備えて構え直すと、目の前の維が怪人に銃口を向けた。

「私を撃つというのか。当たりやしないぞ」
「......近づくな」

 相当の自信があるのだろう。ドスの利いた声で唸るように言うと、銃口を怪人の赤仮面に向けた。だが、怪人も怯むわけには行かない。

「ふふ…威勢の良いことで」

 一歩、また一歩と慎重に維に近づく。舐められるわけにはいかない。赤面隊は舐められてしまっては終わりなのだ。ましてや、隊長であるこの私が。

「里子さんですね、あなた、良い仲間に恵まれている」
「んんっ…わの事、知ってらのが?」
「止まれ」

 維が怪人の足めがけて発砲する。しかし、怪人はそれを、すんでのところで避けることに成功した。いや、維がわざと外したのかも知れない。怪人の背中に、人知れず冷や汗が流れる。

「お前たちを傷つけるつもりは無い。だからその銃口を下げて貰おうか」
「……。……いいだろう」

 維が武器を下ろす。そうだ、それでいい。学生同士で命のやり取りはしなくていい。私が目指す未来には、学生同士の団結が必要だ。命のやり取りをして、いがみ合っている場合ではない。怪人は自分を奮い立たせた。

「おっかねぇ仮面だの…」

 里子がぼそりと呟いた。紡が慌てて耳打ちする。

「里子、あんまり余計な事言わないほうがいいよ」
「すまね」

 一呼吸置いて、怪人は演説を開始した。

「我々学生同士が殺しあう必要は無い」
「急に何を…」

 紡が口を挟むが、怪人はそのまま続けた。戦場であまりモタモタするのは得策ではないからだ。

「我々赤面隊は、仲間を求めている。理想を共に作り上げる仲間を。そしてそれは、他ならぬお前達学生諸君だ。…私は…」

 突如、怪人に二つの刃と共に、黒軍の少女が一人飛び掛ってきた。杜白黒乃だ。黒乃は目を血走らせ、普段の冷静そうな様子から一変、バーサーカーのように闇雲に武器を振り回している。

「見つけた!殺してやる!死ねぇぇぇえええ!!」
「黒乃…!」

 誰にも聞こえない、ほんの小さな声量で呟いた。震えた声。不意をつかれ、怪人のペースが崩された。

「お前がいなければ!お前がぁ!!」
「まて、止まれ!」

 攻撃を薙刀の柄で受け流しながら、黒乃に語りかける。が、黒乃は一向に止まりそうに無い。人殺しとか、鬼畜野郎とか、罵詈雑言を怪人に浴びせていた。錯乱する黒軍の少女を見て、維と紡も黒乃に加勢を決めたらしい。紡が里子を守りつつ、維が発砲。怪人の劣勢は明らかだった。

「うっ…クソッ!」
「潮時だな、カイ」
「タケか。引き込むチャンスなんだ…」

 猛人がその大きな左手で全ての銃弾をはじき返し、巨大なメイスを地面に向けて振り下ろした。地面が反動で隆起し、吹き上がり、土の目くらましとなった。

「諦めろ、無理だ」
「いいや、諦めない!」
「いい加減にしろ!」
「黙れ!私に指図するな!」
「またアレを繰り返す気か!」

 その瞬間、あの、黒軍の少女の最後の姿が怪人の脳裏によみがえった。覚悟のある正規軍の大人を殺すことは躊躇しない怪人も、時代に翻弄されているだけの学生を殺すことだけはしなかった。あの時の「学生殺し」は、怪人にとって、大きなトラウマとなっていた。

「わかった…」

 胸のペンダントを押さえ、諌めていた猛人よりも素早く、怪人はその場を後にした。人がいなくなった戦場に、黒乃の悲痛な叫び声だけがこだまし続けていた。

学生戦争 黒乃×怪人 黒乃の親友

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 杜白 黒乃<モリシロ クロノ>
 水山 怪人<ミナヤマ カイト>







 その時私が目にしたのは、事切れる親友と、焼け付くほどに真っ赤な血しぶきと、それと同じような真っ赤な仮面。そいつは私の親友の形見……ペンダントを奪い去ると、絶望と恐怖に固まる私の目の前から走り去って行った。

 許さない。私はあの、赤面の男を許さない。絶対に、この手で復讐するんだ。
 死んだあの子なら、今の私に「私の事は忘れて、あなたは楽しく、幸せに生きて。」って、そう言うに決まっているけど……でも、私はそんなこと出来ない。出来るわけがない。あなたを失って私の世界は、意味を失ってしまったのだから。

 学校の屋上。杜白黒乃は一人、悶々とその復讐心を滾らせていた。それでも、屋上にいる分、黒乃は少しだけ気持ちが楽だった。吹き抜ける心地よい風は、窮屈に閉ざされた教室や街中よりも、幾分、彼女の心の炎を弱らせた。

「またサボってるな。」
 ・・
 まただ。また、水山怪人が現れた。先日の昼の一軒から、この男は頻繁に屋上にやってくるようになった。

「おうい……無視か。むし…。うん、さては虫の居所が悪いな?」
「面白くない。」
「あ、そう。」

 怪人は、黒乃との距離を保ったまま、その場に座り、いつもどおり、握り飯をほおばり始めた。黒乃は一息飲み込むと、意を決して男に近づいた。屋根の上と地面という大きな上下の距離がなければ、体が触れるかという距離。そこまで移動し座り込むと、少しだけ目を背けながら、パンをほうばった。今日の昼食は、焼きそばパンとチョコチップメロンパンだ。黒乃は、無意識下で、怪人が来るまで、口にするのを我慢していた。心のどこかで、楽しみにしていた。
 怪人との会食を重ねるうちに、黒乃は、この男がどんな人間なのかを少しずつ知っていった。決して秘密には踏み込まず、距離をとる。他人を無下に扱わず、ただ、待っていてくれる。黒乃の心の内を理解しているかのように、怪人は、毎日、優しく、他愛もない事を話し続けた。おかげで、怪人の居るうちだけは、黒乃は、復讐心に身を窶すことなく気楽になることができた。

 けれど、今日の復讐の炎は、いつもよりも強かった。風に触れ、怪人の話に誤魔化されても、消えることなく、黒乃のこころの中でじりじりと燃え続けていた。

「ねぇ」
「ん」
「何で戦争してるんだろう。」
「個々に理由なんてないだろう。皆何かを守ってるのさ。」
「そうなのかな。」

 黒乃は、そんな答えでは到底納得できなかった。他人の守りたいものなんて知らない。私達は、何かを奪おうとしたわけではない。それなのに、奪われてしまったのだ。

「まぁでも、殺すのが楽しくなってしまった人も居るだろうな。悲しいことだよ。」
「悲しい?どうして?」
「まさか、生まれながらに同族殺しをやりたい奴なんていないだろうと思って。…黒乃も、人殺しなんてごめんだろ。」
「…」
「まぁ…ひ」
「……殺したい奴は、居る、よ…!」

◆◇◆

 怪人は、黒乃にかける言葉を考えていた。
落ち着けとも、考え直せとも、その程度の安っぽい言葉は通用しそうも無い。こいつは相当、根深いところまで蝕まれているようだ。とはいえ私は、学生の無意味な殺し合いを止めなければならない。それが師からの教えであり、私の願いでもある。

 戦中。憎悪が支配するこの時代に、黒乃のような人間は多い。特に学生は、その傾向が強かった。しかしこの黒乃は、その中でもとびきり、大きな闇を抱えているようだった。怪人は、それがどうにも気がかりで、こうやって、ほぼ毎日、屋上へ足を運んでいた。

「でも」
「…」
「私もきっと、黒乃が殺されたなら、そう思うかもしれない。」
「でもって、何。」
「あー、いや…」
「適当な事言わないで。」
「悪い。すまん。」
「いい…けど…。」

 上手くいかない。いつも、何をしてもこうだ。私はどうにも、上手く物事を進めることができない。思えばあの時も、一時の油断があの娘の命を奪ったのだ。


 怪人は、数ヶ月前の戦いで、黒軍の少女の命を奪った。厳密には、少女の願いを聞いて一思いに楽にしてやっただけなのだが、それでも、いくつも変わらない、学生の少女の命を奪ったことには変わりなかった。怪人は、この際の失態が、いつまでもいつまでも、心の底に重く居座っているのを確かに感じていた。しかしこの重みは必要な事なのだと、怪人は、必死にそれを一人受け止めようとしていた。
 怪人はこの少女と、一つ、約束をした。
 二つのとても小さな宝石が入った、小さなペンダント。これを、残した友人に渡して欲しいというのだ。怪人は、これを快く受け入れた。目印は同じペンダント。探せば、すぐに見つかるものだと考えていた。

 しかし、探せど探せど、そんなものは見つからない。隠しているのか、死んでしまったか、どちらにせよ、一朝一夕で見つけられるものではないことを知った怪人は、大きな呪いを背負わされた事を知った。渡すか捨てるかしない限り、このペンダントは、怪人にあの日を鮮明に思い出させる。案の定、怪人は何度も夢に見、苦しんだ。
 それでも、捨てることは出来なかった。少女の思いを無下にし、捨てることは、今感じている苦しみの何倍も、その後の自分を苦しめると分かっていたからだ。自分は、簡単に命を諦められるような人間ではないことを、怪人自信がよくわかっていた。最後の願いを無視するなんてこと、できるはずが無い。それならば、あの日、あの娘の首をかき切った感触、浴びた血潮、痙攣するその姿を何度もフラッシュバックしたほうがまだマシだ。

「ね、ねぇ。」

 とん、と、黒乃の手が怪人の頭に触れた。それに反応して、怪人の意識は、現実世界に帰ってきた。どうやらあの後すぐに、正気を失ってしまっていたらしい。現実世界は、すでに夕暮れの中だった。
 怪人はまず、服の中に隠したペンダントを確認した。少女のものよりも二回りほど大きなペンダント。自分への戒めのため、少女の血を吸ったほんの小さな布切れとその少女のペンダントを詰め込んだ、少し無骨な赤黒いペンダントだ。

「もう、帰る時間だから…。」
「あ、うん。ありがとう。」
「ごめんね。」
「黒乃は悪くないよ、こっちこそ悪かった。」

 食べかけのおにぎりをビニール袋に突っ込むと、怪人は黒乃と一緒に屋上を後にした。

<学生戦争> 黒乃×怪人 屋上にて。

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 杜白 黒乃<モリシロ クロノ>
 水山 怪人<ミナヤマ カイト>







 三時限終了の鐘が鳴る。黒軍に所属するこの学校の生徒、杜白黒乃(もりしろくろの)は、授業をすっぽかし、ただ一人屋上でその音を聴いていた。

(あ、もうお昼か…。)

 学食横の購買であらかじめ買っておいたコロッケパンといちごジャムパンを眺め、どちらから手をつけようかと、そう考え始めた矢先の事だ。黒乃が背を向けている、屋上の入り口側から声が響いた。

「お、先着が居たか。」

 瞬時に反転し、腰に携えた双剣に手を添える。
 動揺する黒乃に反し、動揺なく穏やかそうな表情を崩さないその男は、その場にとどまりながら声をかけてきた。

「お…はは、物騒なものはしまっとけ。それとも、ここに居ちゃまずかったかな?」

 男の詰襟に三学年の証が光っている。この男の名は水山怪人(みなやまかいと)。同校に所属する三学年の生徒だ。あでやかな長髪がさっぱりと縛り、纏められ、髪の長さの割りに、不潔な感じはしない。

「んー…。」

 武器から手を下ろしたものの、一言も発さない黒乃の気持ちを汲んだのか、怪人はその場に「よっこらせ」と若者らしからぬ掛け声を発しながら腰掛け、驚く程に手早く、おにぎりを貪り始めた。
 その様子を見て、黒乃は、食事の場所を変えようと立ち上がった。人に眺められながらの食事など、心地よいものではない。自分は、動物園のサルではないのだ。

◆◇◆

 怪人は、それをぼんやりと眺めていた。逃げたからといって、追うつもりはない。怪人は、この学校でいざこざを起こすつもりなど毛頭無かった。誰も居なくなったのを良いことに、黒乃が先ほどまで居た「特等席」に移動すると、遠くを眺めながら最後のおにぎりに手をつけた。

(三年間の間に、ここから眺める景色も随分変わったなぁ…)

 三年前、怪人がこの学校に入学した頃と比べると、随分と廃墟や焼け跡が増えていた。戦時中なのだ、無理も無いが、怪人は、それがとても悲しかった。
 何処が勝てばよいとか、そういった簡単な話ではないのだ。壊せば壊すほど、後から掛かる労力は大きくなる。残った力が少なくなり、体力が無くなってゆく。本当は、白、黒、赤の軍が、戦いもせず、ただにらみ合ってけん制しているだけの状態が理想であると、怪人はそう考えていた。
 もちろん、理想論で言えば、全ての人と分かり合い、手を取り合って生きてゆけるのが良いに決まっている。しかしそんなことは不可能であることを怪人は知っていた。事実、先ほどの少女も、何もしていないのにも関わらず、怪人を拒絶し、逃げて行ったのだ。とても「全ての人が手を取り合う」なんてことが、できるようには思えない。

「ちょっとアンタ。」

 ふいに背後から声がした。振り向くと、そこには二人組の女性が立っていた。苛立ちを隠せない表情で、せわしなく足元を動かしている。スカーフの色を見る限り、三学年の生徒だろう。

「アンタ、この辺で杜白見んかったか?」
「ぼんやりした双剣持った女なんだけど?」

 先ほどまでここでパンを眺めていた少女の事だろう。言うか言うまいか考えているところで、怪人は思い出した。この二人組みは、所謂不良という奴だ。どうせしょうもないプライドを保つためだけに、後輩を虐めに来たのだろう。こういうのに加担するほど、怪人は腐っていない。

「さあ。悪いけど、人は見ていないなぁ。」
「あっそ!じゃ!」

 醜い性格を凝縮したような表情を見せた二人組は、怪人が声を発し終わる前に、食い入るかのように言い捨てると、大げさに扉を閉め、去って行った。
 再び静寂が訪れ、伸びをした後、怪人は気が付いた。屋上入り口の上に、双剣を両手に携えた杜白黒乃が立っている。

「・・・なんで、言わなかったの。」

 黒乃は、武器をしまいもせず、構えもそのままに、口だけを動かした。怪人はもう一度景色に視線を戻すと、黒乃に返答した。

「さあ。別にどっちに付く気も無いって事さ。」
「わけわかんない。」
「わかんなくていい。」

 合点がいかないといった表情で、黒乃は武器を仕舞い、その場に腰掛けた。そしてそのまま、急いでしまい込んだために崩れかけたコロッケパンを取り出すと、食事を再開した。黒乃が逃げていかないことを横目に確認すると、怪人は静寂を破った。

「私は水山怪人って言うんだ。そっちは、杜白、何?」
「・・・黒乃。」
「クロノね。普段からここにいるんだ。」
「人が少ないから。ああいうメンドーな奴等はくるけど。」
「ふぅん。先輩相手に、なにしたのさ。」

 ずっと目線を合わせず話していた黒乃が、横目で怪人を睨む。が、すぐに視線を戻した。その仕草に怪人はため息を付き、なし崩しに会話を終了させようと、「まあいいけど」と付け加えた。どうせ、碌でもないいちゃもんを付けられたに過ぎないのだ。その程度の事を根掘り葉掘りと聞くような興味は、持ち合わせていなかった。

「別に」
「ん?」
「お礼は言わないから。」
「ふふ、別にいいよ、そんなもの。好きでやったわけだし。ね?」
「うん…。」

 そうは言うものの、動かない表情の奥、その心の中で、黒乃は怪人に感謝の念を抱いていた。だがそれとは対照的に、抑揚をつけた話し方で、表情を動かしながら受け答えする怪人の心は冷たく冷えていた。楽しそうにしていても、その実、この男は誰も受け入れたりはしないのだ。
 誰にでも平等に、和平的で、優しいというのは、実は、こういう冷たさがあってこそ、実現可能なことなのかもしれない。

「水山さんは、何でここに来たの?」
「んー。」

 黒乃からそんな質問を受けると思っても見なかった怪人は、少し困ったような表情を見せた。ここに来たのはとある「用事」があってのことだ。だがそれは、黒軍所属のこの学校の生徒に明かすことは出来ない。
 水山怪人は、赤軍に所属している。ここで行おうとしていたのは、このところ滞っていた、本部への報告だった。部隊長という身の上柄、定期的な報告を義務付けられては居るのだが、ものぐさで、本部の方針に同意しかねている怪人は、暫くそれをすっぽかしていた。それでも、流石の怪人もそろそろ連絡を入れなければならないと考えていたところだったというわけだ。

「まぁ、久々に、見たくなって、な。景色とか。」
「ふぅん。」

 たどたどしい受け答え。黒乃は少しだけそれを訝しんだが、怪人が涼しい顔をしているのを見て、すこし強引めに自分を納得させた。危険な人物ではない。そう思いたかった。

「思ったよりここ寒いな。」

 肩をすくめて見せる怪人。

「まぁ、屋上だし。」
「そだな。」

 ふと目をやると、黒乃の指先がうっ血しているのが分かった。およそ武器を振り回すようには見えない白く繊細な指先は、冷たい風をうけて、余計に白く見えた。

「お前、そろそろ室内に戻ったらどうだ。血色悪いぞ。」
「べつに、いい。」
「あっそ…。」
(気まずい…。)
(気まずいなぁ。)

 お互い同じ事を考えているとはいざ知らず、風と時間だけが流れ行く。そうやってぼうっとして居るうちに、昼休み終了の予鈴が響いた。およそ20分間ほどの沈黙だった。

「じゃ、私は行くけど、お前もあまりサボってばかり居んなよ。」
「…。」
「返事!」
「うん。」   ・・・
「っふふ。じゃ、またな。」

 それだけ言うと、怪人はまた、室内へと姿を消した。怪人の姿が見えなくなるまで、黒乃は、その場で消え行く怪人の姿をただ、見守っていた。

◆◇◆

(久しぶりに他人とちゃんと話をした気がする。)

 六時限終了の本鈴が鳴ってもなお、黒乃は屋上にいた。屋上の中でも一番高い屋根の上に上って、普段は服の内に潜めているペンダントを眺め。一人、物思いに耽っていた。

(あの子が今ここにいたなら、私になんと言っただろうか。)

(さっきの人みたいに、私に授業へ向かえと、言っただろうか。)

(…。)

(まさか。)

(どうせ私がそうしないことを知っているし、言わないだろう。)

(私を残していつも授業に行ってたっけ。真面目だったな。)

(そんなだから、こんな。)

 黒乃の瞳が、少しだけ潤む。

(私を置いていくのは、授業の時だけにしてよ…!)

 黒乃には、死別した親友が居た。胸に潜めたペンダントは、二人で探して、選んで、おそろいで購入したものだ。小さな小瓶の中に、二人の誕生石が入っている。黒乃と同じに相方を失ったそれは、傾いた太陽の光を受けて、悲しそうに光っていた。
 黒乃は度々こうやって、深層の中に沈んでいった。あまりにも大きかった親友の存在は、黒乃に、孤独に勝る、失う怖さを植えつけた。すでに居ない友人の存在は、孤独な黒乃を、より孤独にしていった。

 だが、人は自分の意思だけでは運命を決定付けられない。孤独の世界に生きると決めた黒乃に、運命は、次の友人達を連れてきた。この男も、その一人だ。

「お、やっぱり居たか。おーい。」

 片手に小さなひざ掛けを持った怪人が、屋上の入り口から“一番高いところ”の黒乃に向かって声をかけてきた。お節介な男は、ジェスチャーで、ひざ掛けを投げるから取れと、伝えてきた。

「や、いらないって・・・あ…。」
「ナイスキャッチ!あはは。」

 怪人の笑顔と、夕焼けが眩しい。充血した眼の色も、この鮮やかな夕日の中ならばごまかしが利くだろうことに、黒乃は少しだけ安心していた。やはり、情けない姿を他人に晒すのは大変な抵抗がある。

「ありがと…。」
「もう帰る時間だぞ。巡回来る前に下りて来い。」
「うん…。」

 黒乃はそのまま、怪人と帰路についた。
 この赤い夕日は、迷い続ける黒乃にとって、少しばかり眩しすぎた。

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