忍者ブログ

<学生戦争> 黒乃×怪人 屋上にて。:猫小屋日記


<学生戦争> 黒乃×怪人 屋上にて。

■企画元
 学生戦争ったー

■登場人物
 杜白 黒乃<モリシロ クロノ>
 水山 怪人<ミナヤマ カイト>







 三時限終了の鐘が鳴る。黒軍に所属するこの学校の生徒、杜白黒乃(もりしろくろの)は、授業をすっぽかし、ただ一人屋上でその音を聴いていた。

(あ、もうお昼か…。)

 学食横の購買であらかじめ買っておいたコロッケパンといちごジャムパンを眺め、どちらから手をつけようかと、そう考え始めた矢先の事だ。黒乃が背を向けている、屋上の入り口側から声が響いた。

「お、先着が居たか。」

 瞬時に反転し、腰に携えた双剣に手を添える。
 動揺する黒乃に反し、動揺なく穏やかそうな表情を崩さないその男は、その場にとどまりながら声をかけてきた。

「お…はは、物騒なものはしまっとけ。それとも、ここに居ちゃまずかったかな?」

 男の詰襟に三学年の証が光っている。この男の名は水山怪人(みなやまかいと)。同校に所属する三学年の生徒だ。あでやかな長髪がさっぱりと縛り、纏められ、髪の長さの割りに、不潔な感じはしない。

「んー…。」

 武器から手を下ろしたものの、一言も発さない黒乃の気持ちを汲んだのか、怪人はその場に「よっこらせ」と若者らしからぬ掛け声を発しながら腰掛け、驚く程に手早く、おにぎりを貪り始めた。
 その様子を見て、黒乃は、食事の場所を変えようと立ち上がった。人に眺められながらの食事など、心地よいものではない。自分は、動物園のサルではないのだ。

◆◇◆

 怪人は、それをぼんやりと眺めていた。逃げたからといって、追うつもりはない。怪人は、この学校でいざこざを起こすつもりなど毛頭無かった。誰も居なくなったのを良いことに、黒乃が先ほどまで居た「特等席」に移動すると、遠くを眺めながら最後のおにぎりに手をつけた。

(三年間の間に、ここから眺める景色も随分変わったなぁ…)

 三年前、怪人がこの学校に入学した頃と比べると、随分と廃墟や焼け跡が増えていた。戦時中なのだ、無理も無いが、怪人は、それがとても悲しかった。
 何処が勝てばよいとか、そういった簡単な話ではないのだ。壊せば壊すほど、後から掛かる労力は大きくなる。残った力が少なくなり、体力が無くなってゆく。本当は、白、黒、赤の軍が、戦いもせず、ただにらみ合ってけん制しているだけの状態が理想であると、怪人はそう考えていた。
 もちろん、理想論で言えば、全ての人と分かり合い、手を取り合って生きてゆけるのが良いに決まっている。しかしそんなことは不可能であることを怪人は知っていた。事実、先ほどの少女も、何もしていないのにも関わらず、怪人を拒絶し、逃げて行ったのだ。とても「全ての人が手を取り合う」なんてことが、できるようには思えない。

「ちょっとアンタ。」

 ふいに背後から声がした。振り向くと、そこには二人組の女性が立っていた。苛立ちを隠せない表情で、せわしなく足元を動かしている。スカーフの色を見る限り、三学年の生徒だろう。

「アンタ、この辺で杜白見んかったか?」
「ぼんやりした双剣持った女なんだけど?」

 先ほどまでここでパンを眺めていた少女の事だろう。言うか言うまいか考えているところで、怪人は思い出した。この二人組みは、所謂不良という奴だ。どうせしょうもないプライドを保つためだけに、後輩を虐めに来たのだろう。こういうのに加担するほど、怪人は腐っていない。

「さあ。悪いけど、人は見ていないなぁ。」
「あっそ!じゃ!」

 醜い性格を凝縮したような表情を見せた二人組は、怪人が声を発し終わる前に、食い入るかのように言い捨てると、大げさに扉を閉め、去って行った。
 再び静寂が訪れ、伸びをした後、怪人は気が付いた。屋上入り口の上に、双剣を両手に携えた杜白黒乃が立っている。

「・・・なんで、言わなかったの。」

 黒乃は、武器をしまいもせず、構えもそのままに、口だけを動かした。怪人はもう一度景色に視線を戻すと、黒乃に返答した。

「さあ。別にどっちに付く気も無いって事さ。」
「わけわかんない。」
「わかんなくていい。」

 合点がいかないといった表情で、黒乃は武器を仕舞い、その場に腰掛けた。そしてそのまま、急いでしまい込んだために崩れかけたコロッケパンを取り出すと、食事を再開した。黒乃が逃げていかないことを横目に確認すると、怪人は静寂を破った。

「私は水山怪人って言うんだ。そっちは、杜白、何?」
「・・・黒乃。」
「クロノね。普段からここにいるんだ。」
「人が少ないから。ああいうメンドーな奴等はくるけど。」
「ふぅん。先輩相手に、なにしたのさ。」

 ずっと目線を合わせず話していた黒乃が、横目で怪人を睨む。が、すぐに視線を戻した。その仕草に怪人はため息を付き、なし崩しに会話を終了させようと、「まあいいけど」と付け加えた。どうせ、碌でもないいちゃもんを付けられたに過ぎないのだ。その程度の事を根掘り葉掘りと聞くような興味は、持ち合わせていなかった。

「別に」
「ん?」
「お礼は言わないから。」
「ふふ、別にいいよ、そんなもの。好きでやったわけだし。ね?」
「うん…。」

 そうは言うものの、動かない表情の奥、その心の中で、黒乃は怪人に感謝の念を抱いていた。だがそれとは対照的に、抑揚をつけた話し方で、表情を動かしながら受け答えする怪人の心は冷たく冷えていた。楽しそうにしていても、その実、この男は誰も受け入れたりはしないのだ。
 誰にでも平等に、和平的で、優しいというのは、実は、こういう冷たさがあってこそ、実現可能なことなのかもしれない。

「水山さんは、何でここに来たの?」
「んー。」

 黒乃からそんな質問を受けると思っても見なかった怪人は、少し困ったような表情を見せた。ここに来たのはとある「用事」があってのことだ。だがそれは、黒軍所属のこの学校の生徒に明かすことは出来ない。
 水山怪人は、赤軍に所属している。ここで行おうとしていたのは、このところ滞っていた、本部への報告だった。部隊長という身の上柄、定期的な報告を義務付けられては居るのだが、ものぐさで、本部の方針に同意しかねている怪人は、暫くそれをすっぽかしていた。それでも、流石の怪人もそろそろ連絡を入れなければならないと考えていたところだったというわけだ。

「まぁ、久々に、見たくなって、な。景色とか。」
「ふぅん。」

 たどたどしい受け答え。黒乃は少しだけそれを訝しんだが、怪人が涼しい顔をしているのを見て、すこし強引めに自分を納得させた。危険な人物ではない。そう思いたかった。

「思ったよりここ寒いな。」

 肩をすくめて見せる怪人。

「まぁ、屋上だし。」
「そだな。」

 ふと目をやると、黒乃の指先がうっ血しているのが分かった。およそ武器を振り回すようには見えない白く繊細な指先は、冷たい風をうけて、余計に白く見えた。

「お前、そろそろ室内に戻ったらどうだ。血色悪いぞ。」
「べつに、いい。」
「あっそ…。」
(気まずい…。)
(気まずいなぁ。)

 お互い同じ事を考えているとはいざ知らず、風と時間だけが流れ行く。そうやってぼうっとして居るうちに、昼休み終了の予鈴が響いた。およそ20分間ほどの沈黙だった。

「じゃ、私は行くけど、お前もあまりサボってばかり居んなよ。」
「…。」
「返事!」
「うん。」   ・・・
「っふふ。じゃ、またな。」

 それだけ言うと、怪人はまた、室内へと姿を消した。怪人の姿が見えなくなるまで、黒乃は、その場で消え行く怪人の姿をただ、見守っていた。

◆◇◆

(久しぶりに他人とちゃんと話をした気がする。)

 六時限終了の本鈴が鳴ってもなお、黒乃は屋上にいた。屋上の中でも一番高い屋根の上に上って、普段は服の内に潜めているペンダントを眺め。一人、物思いに耽っていた。

(あの子が今ここにいたなら、私になんと言っただろうか。)

(さっきの人みたいに、私に授業へ向かえと、言っただろうか。)

(…。)

(まさか。)

(どうせ私がそうしないことを知っているし、言わないだろう。)

(私を残していつも授業に行ってたっけ。真面目だったな。)

(そんなだから、こんな。)

 黒乃の瞳が、少しだけ潤む。

(私を置いていくのは、授業の時だけにしてよ…!)

 黒乃には、死別した親友が居た。胸に潜めたペンダントは、二人で探して、選んで、おそろいで購入したものだ。小さな小瓶の中に、二人の誕生石が入っている。黒乃と同じに相方を失ったそれは、傾いた太陽の光を受けて、悲しそうに光っていた。
 黒乃は度々こうやって、深層の中に沈んでいった。あまりにも大きかった親友の存在は、黒乃に、孤独に勝る、失う怖さを植えつけた。すでに居ない友人の存在は、孤独な黒乃を、より孤独にしていった。

 だが、人は自分の意思だけでは運命を決定付けられない。孤独の世界に生きると決めた黒乃に、運命は、次の友人達を連れてきた。この男も、その一人だ。

「お、やっぱり居たか。おーい。」

 片手に小さなひざ掛けを持った怪人が、屋上の入り口から“一番高いところ”の黒乃に向かって声をかけてきた。お節介な男は、ジェスチャーで、ひざ掛けを投げるから取れと、伝えてきた。

「や、いらないって・・・あ…。」
「ナイスキャッチ!あはは。」

 怪人の笑顔と、夕焼けが眩しい。充血した眼の色も、この鮮やかな夕日の中ならばごまかしが利くだろうことに、黒乃は少しだけ安心していた。やはり、情けない姿を他人に晒すのは大変な抵抗がある。

「ありがと…。」
「もう帰る時間だぞ。巡回来る前に下りて来い。」
「うん…。」

 黒乃はそのまま、怪人と帰路についた。
 この赤い夕日は、迷い続ける黒乃にとって、少しばかり眩しすぎた。
PR

Comment

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード

プラグイン

ブログ内検索

カレンダー

11 2017/12 01
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

猫小屋

最新記事

カテゴリー

バーコード

最新コメント

[02/20 もの]
[02/19 赤色狐]
[11/21 赤色狐]